ギャルの遠吠え

脈絡ゼロ!

母と陰謀論~重曹クエン酸水を添えて~

私は基本的に色んなものを疑って生きている。友人や家族、そしてペットまで、あまり信じてはいない。

なんでもかんでも信じないぞ!と意気込んでいるわけではなく、盲信していないという表現の方が正しいかもしれない。友人と縁が切れても「まあそんなもんだよな」と思うし、家族とそうなってもそう思う気がする。

 

別にこれは批判ではないけれど、たまにペットを信じきっている人がいる。まだ善悪の判断がつかない赤ん坊に犬や猫を近づけたり、赤ん坊が耳やしっぽを掴んでも「攻撃しちゃいけないってわかっているから噛んだりしないの」と言う人。私にはあれが不思議でたまらない。人間ですら衝動に駆られて人を殺めるというのに、何故犬や猫がずっと我慢できると思うのか。

私は1匹の猫と暮らしている。彼女はとても利口だし、まだ人間を噛んだり引っ掻いたりしたことがない。多分赤ん坊を目の前にして、しっぽを掴まれたところでいきなり攻撃したりはしないはずである。でもこれはあくまで「そのはず」なだけだ。「多分」そうなだけ。

私は家に人が訪ねてきて、彼女を触ろうとした時には「噛まない保証はしない」と伝える。それは別に彼女が噛むと思っているわけではなくて、もし噛んでも人間側が悪いと前もって言っておく必要があると思っているから。

言葉が通じず、こちらは動物の思考の全てを把握することはできない。だから絶対「うちの子は大丈夫」なんて思うことはできない。

乳幼児も同じだ。言葉は悪いけれど「ニンゲンナラズ」みたいなもので、動物に危害を加えないという保証はどこにもない。現に私はそのニンゲンナラズと近づくのがちょっと怖い。

 

少し話が逸れたけれど、こんな風に私はペットを信じていない。今私の中で1番優先順位が高いのが猫様だから、それ以下の人間はもっと信じていない。

どうしてこうも懐疑的な人間になったのかと考えると、やはり母の影響が大きいと思う。

 

母は優しい人で、家事もそつ無くこなすタイプのいわば「良妻賢母」である。少なくとも外側からはそう見えるし、私もかなり手をかけられて育った。美味しい料理、掃除された部屋に清潔な衣服。大人になって飲食のアルバイトをするまで、私はカビの生えた食べ物を見たことがなかった。母はそうやって家庭の中を良い状態で保つことが得意で、家事自体も嫌いではないらしい。

でも母は少し騙されやすいところがあった。あったというか、今もある。次々と新興宗教ネズミ講陰謀論にハマるのだ。

私の知っている限りでは6つほど。ただ私の物心がつく前にも何かしらに傾倒していた可能性があるので、本当はもっとかもしれない。怖くてそんなこと聞けるわけがない。具体的な団体名を出すと危ない気もするから、ここでは名前は出さないが、とにかく母はそういったものにハマりやすい。そんな母を私は反面教師にしてきた。

信教の自由は当然母にもあるので、それ自体を否定することはない。それでも、何かに取り憑かれたようにハマる母と過ごすのは苦痛だった。親がそういうものに心酔していると、基本的に子供に拒否権はない。無関心を貫くことはできるけれど、避けて生きることは不可能である。父親は前のブログでも書いたように空気のような人なので、母が何にハマっていようと何も言わないししなかった。全く役に立たない父親である。

幸い母は金銭を多額に投入するタイプではなかったので、それも影響したのだろう。

 

私の1番古い記憶にあるのは子供と母親の集まりを装った宗教団体だ。ハマる流れはよく知らないけれど、ネットで調べたところ、子育てに悩む母親をターゲットにしているらしい。教えとしては「男性が1番偉いので、妻や子供は父親を尊敬しなくてはならない」的なやつだった。時代錯誤も甚だしいが、そんな感じ。その教えからか、母は父を見送る時に玄関で三つ指をついて土下座していた。あの時の父の表情、その場の空気は絶対に教育に良くなかった。当時の父親の心境を聞きたいところである。

その次にハマったのが確かネズミ講だ。市販の石鹸やシャンプーは毒だから、この製品を使うと健康になるとかなんとか。どう毒であるか、そのメカニズムまでは幼かった私は覚えていない。この辺から母はオーガニック信仰になった。

その後も次々と、今問題になっている宗教団体、チャクラがどうのこうという霊感商法的なものにハマった。よくもまあ飽きないものである。

 

そして今彼女が熱を上げているのがそう、陰謀論である。コロナのワクチン接種が始まったくらいから、彼女のそれは始まった。

ハマった経路としては、マッサージだか整体だかに行って、そこで彼らの言う「真実」とやらを教えられたらしい。コロナワクチンは人口を減らすための生物兵器だの、ワクチン接種者からワクチンの毒素(?)が発せられるから未接種者も解毒をする必要があるだの、そういう「真実」を聞いてきた。

案の定、母はそれを熱心に信じた。まずコロナワクチンの解毒を含め、様々な病気にならないためには身体をアルカリ性に保つ必要があるらしい。食べ物から洗剤まで諸々に含まれる添加物を避け、風呂の湯にマグネシウムの玉を突っ込み、よくわからない岩塩を水に溶かして飲み、重曹クエン酸水も飲むことに精を出した。そもそも身体をアルカリ性に保つための努力の意味がよく分からないのだけれど、とにかくそうしなくては色んな病気になるらしい。

そして私を含め家族を巻き込み始めた。花粉症の弟に重曹クエン酸水を、怪我をした父親にも重曹クエン酸水を飲ませ始めた。水に重曹クエン酸を足しても添加物と炭酸しか生まれないのに、何がどう効くというのだろう。

私は断固として信じないという姿勢をとっているけれど、母はそれが不満らしい。私がコロナ後遺症を引きずっている今も、それはコロナ後遺症ではなくてワクチン接種者から出る毒素にやられているのだと説得してくる。

どうやらペットにも良いとされているようで、私の猫様にもその「素晴らしいお水」を飲ませようとしたので、引っぱたいて止めた。猫様にかかる諸経費は私が全額出しているから、余計なことをするな、と。

陰謀論は凄い。皮肉の意味で。至る所に信者が居て、コロナ禍でその勢いはもう留まるところを知らない。コロナが流行ることを「パンデミック」と言うけれど、母のように怪しい情報に踊らされることを「インフォデミック」と言うらしい。

陰謀論を除けば、母は昔から変わっていない。でももう陰謀論を母から除くことが出来なくなっている。コロナ後遺症で私がずっとリバースしている時も、「デトックスだ!」とほざいていた。心配してくれた優しい母はもう見る影もない。彼女はもう今や「誰も知らない真実」に踊らされる、BOØWYもびっくりのマリオネットなのである。

母方の親族もその「真実」に全員やられてしまった。もう話も通じない。宇宙人と話しているような気分にすらなる。科学的な論文やエビデンスを示しても、それこそが政府の陰謀だと突っぱねてしまう。

そもそもその手の話はググッたら出てくるのに、どうして「誰も知らない真実」だと思えるのか。私からすれば、ググッて出てくる情報はもはや「誰も知らない真実」ではない。

今日も母は私の目の前でせっせと重曹クエン酸水を作っている。

 

こんな話、ネットでなければ誰にもできない。宗教の話は元々しにくいものであるし、近しい人がそんなものにハマっていると言うと、私まで信者だと思われてしまう。

私は周囲の人には明るくてちょっと頭の悪い騒がしい女の子だと思われている。そんな私がこんな話、打ち明けられるはずがないのだ。言われた方も反応に困るだろう。だから私には黙っている義務がある。

 

誰が何を信じようと自由である。でも、そのせいで豹変した母を見るのはやはり来るものがある。いつか何かの拍子に飽きてくれないか、と少し期待もしている。

当分そんな日は来なさそうなので、私はしばらく重曹クエン酸水を眺めて暮らすしかなさそうだ。