ギャルの遠吠え

脈絡ゼロ!

東の魔女が死んだ。

祖母が亡くなった。母方の。ガンでじわりじわりと。

 

私はこのブログを火葬が終わってすぐ、恋人の家に向かう途中の電車で書いている。彼の家にいる時に訃報が届いたので、急いで1日帰ってきた。彼には悪いことをしてしまった。

 

私はこれまで葬式というものにまともに参列したことがなかった。物心つく前に祖父のお葬式があったらしいが、覚えていないからノーカウント。この祖母のお葬式が私の初のお葬式だった。

家族葬を祖母も親戚一同も希望していたので、10人足らずの小さな式。式の前に祖母の顔を見たのだけれど、痩せこけて別人のようになっていた。それだけガンとの戦いは壮絶なものだったのだろう。私の知っている魔女のような祖母はもうどこにもいなかった。そう、彼女は魔女だった。私の家から見た時に東の方角に住んでいたから、某有名小説のタイトルをもじって、東の魔女ということにする。

元々彼女はお嬢様育ちらしかったが、駆け落ちして結婚するくらい肝は据わっていた。だが祖母は所謂「男によって変わるタイプ」だったから、祖父の前ではお上品で可愛い人だったらしい。私が物心つく前に祖父は亡くなっていたから、そんな祖母の姿を私は知らない。祖父を亡くしてから祖母は本性を現した。孫が少しでも騒ごうものなら怒鳴りつけ、警察を「サツ」と呼び、泊まりに行ったら朝ごはんにカップ麺を出した。一緒に買い物に行くと、ゲームセンターに一目散に向かい、台を叩きながらスロットを打った。一般的なおばあちゃん像からは程遠い人だった。私も上品な人間ではないが、祖母は明らかにお嬢様育ちには見えなかった。「おばあちゃん像」からかけ離れてはいたものの、明るい人ではあったから私は嫌いではなかった。母が勧めた新興宗教陰謀論を丸呑みにするところ以外は。それでも叔父に対しては甘かったため、叔父の前では「優しいおばあちゃん」を演じていた。嫌味を言うことも多々あったし、ひねくれているところも沢山あった。ドライブ中に「あのお店美味しかったよ〜」も言おうものなら、なぜ前行った時に誘わなかったんだとキレだすところもあった。かと思えば意見を率直に言い過ぎて、母の結婚相手である私の父と大揉めし、離婚騒動にまでなった。私から見れば、祖母は魔女みたいな人だった。

 

そんな祖母が亡くなった。ガンが発覚してから半年ほど。彼女が日に日に生気を無くしていくのを見ていたから、悲しさはなかった。祖母の遺体はもう生き物ではなかったし、燃えた後はただの骨だった。遺影の中で祖母は澄ました顔で笑っていた。「あんた、そんな人じゃないだろう。」と思いながらお経を聞いた。あんな数十分のお経で、自分の死後の世界をなんとかされるような人じゃないと思った。祖父が亡くなってからはずっと「早く迎えに来て欲しい」と言っていたから、きっと偉いお坊さんにお経を唱えられようが、孫にHIPHOPで韻を踏まれようが、這ってでも祖父の元に行くタイプだ。そして、祖母に付けられた戒名はなんだかふんわり柔らかく儚い人をイメージさせるものだった。例の「おばあちゃん像」を演じている時のあの人に付けられたものだから、あまりにもしっくり来ない。「優しくて百合の花のようなお花の良く似合う人でした」とお坊さんは言っていた。吹き出しそうになった。美人ではあったけれど、トゲのあるアザミのような人だったのに。叔父と叔母はひどく泣いていたけれど、私の母はファンキーな祖母だった姿を知っているから泣いていなかった。寝たきりの期間も長かったので、元々覚悟も出来ていたのだろう。私も一滴も涙は湧いてこなかった。平均寿命が近かったから、病気でなくても近いうちに亡くなっていただろうし。

出棺の時も火葬する時も、祖母の棺は頭から運び込まれた。人間は生まれてくる時も死ぬ時も頭からなんだな、とぼんやりしたことを考えていた。

祖母に対してあまりかける言葉が見つからない。嫌いじゃなかったけど、「もう亡くなるだろうな」と覚悟していた時間が長すぎた。お盆の終わりに亡くなったことだし、きっと祖父が連れて行ったのだろう。祖母本人が1番それを望んでいたから、むしろおめでたさを感じるほどだ。

せめてもの餞として、こうしてブログを綴っている。「私に似て美人なんだから、もっと街を歩いて美しさを見せつけてやれ。」と私に祖母は言っていた。ルックスは1ミリも似ていないけれど、私もあの人のようにある程度自由に生きていきたい。もう少し可愛げは欲しいけれど。年老いても自分勝手でいることは、きっと割と難しい。聞き分けが良くなったり、年長者として振る舞ってしまう。そう考えると祖母はあっぱれな生き方をしてくれたと思う。

 

魂がどうとかは知らないけれど、生まれ変わるとしても性格は変わらないはずだ。もし祖母がまた生まれ変わって現世に来るのなら、来世もちゃんと美人で生まれてきてほしい。じゃないときっとあの性格は許されないのだから。